2018.4.27バーフバリのラージャマウリ監督インタビュー@TBSラジオ 書き起こし

TBSラジオ「アフター6ジャンクション」映画バーフバリの監督S・S・ラージャマウリ来日生インタビューの書き起こし|読みやすく一部の補正あり

改めてバーフバリの紹介

インド生まれの傑作娯楽超大作「バーフバリ」2部作の生みの親、つまり創造神「S・S・ラージャマウリ」監督をお呼びしております。ということで映画バーフバリについて簡単に紹介いたします。インド国内の歴代興行成績を塗り替えたアクションエンターテイメント超大作。2017年4月に前編「バーフバリ伝説誕生」そして12月に後編「バーフバリ王の凱旋」が公開され、口コミを中心に評判となりカルト的な大ヒットを記録。現在も DVDソフトがすでに発売されているにもかかわらず「絶叫上映」や「オールナイト上映」などのイベント上映をする度にすべての回が完売してしまう驚異のロングラン作品となっております。

宇多丸氏の絶賛

そして私、宇多丸も最大級の大絶賛です。世界中の誰がいつみても圧倒的に面白いと感じるに違いない、これぞ映画だ!という一大娯楽作。日本映画にとっての「七人の侍」のように、インド映画にとっての「バーフバリ」という立ち位置になるんじゃないか、映画における面白いとは何かを本当に考え尽くし、研究しつくし、工夫しつくし、映画の面白さの仕掛けやアイデアが満載。間違いなく今、日本でやってるどの映画より面白いんだからいきなさい!なんていって、2017年シネマランキングのチャンピオン作品に選び、ラジオで語らせていただきました。私ごときがあれですけど、その評論以降に観客動員が V字回復したという話を聞きまました。

日本でのバーフバリの熱狂を受けて、ついにラージャマウリ監督が来日されているということで、インタビューを申し込み本日スタジオにお越しいただくことになりました。それではスタジオに入っていただきましょう。どうぞ、いらっしゃいませ。こんにちは、よろしくお願いします。


S・S・ラージャマウリ監督インタビュー

宇多丸:
インタビューを始めさせていただきます。
まずは、「バーフバリ」という素晴らしい作品をありがとうございます。

Q1:日本で熱狂的な人気になっていることについてどう思いましたか?

そのニュースを聞いた時は、まさにシュールな信じられないというのが正直なところです。公開からまず1週目、それが4週5週と週を重ねてもう100日越えでロングラン上映しているということ、そして絶叫上映の様子をビデオで見ましたが、ファンのみなさんが似顔絵などを書いてくださっていること、とても信じられないと思いました。くわえて文化的にとても異なるところである日本でこれだけ映画が愛され、みなさんの愛情を本当にビシビシと感じる、映画への愛というものが見て取れました。

Q2:実際に日本に来られて日本の観客の様子はいかがでした?

みなさんコスプレをして、インドの国旗の旗を持ってテルグ語のプラカードを掲げて本当に愛情を体いっぱいに示してくださったんでよね。今回、私とプロデューサーそしてお互いの家族と来日していますけど、本当にみんな涙が出てきました。

Q3:インドと日本での熱狂の違いはありますか?

もちろんインド国内でもお陰様で人気を博しています。それ以外に、アメリカ、イギリス、中東、シンガポール、マレーシア、オーストラリアこういった国でも公開されて人気なんですけども、それはやはりインド人の人口がかなりいる地域であって、そういった人口に頼るところが多いと思うんですね。初めて本当に地元のインド人人口に頼らず人気を集めたというのが日本でした。ですから、そういった文化的に離れた日本のみなさんにアピールできたということをとても誇らしく思います。

宇多丸:
日本では女性ファンも非常に多くて、それはおそらくバーフバリという作品の中での「女性キャラクターの力強さ」「キャラクターの現代性」が現代の女性も共感できる部分があり、これが大きく影響してるんじゃないかと僕は思うのです。特にデーヴァセーナ姫が、国家や家族制度の抑圧に対して個人の尊厳を貫いて戦ったこのデーヴァセーナ姫に、日本の女性も感情移入が直にできたがゆえに熱狂してるんじゃないかと思っています。

Q4:女性キャラクターの描き方について、留意された点はありますか?

私がドラマに何を求めるか、ドラマとして成り立つ際、私がアピールするのは「強いキャラクター」ですね。それは男女問わず。特に今回は、主役の男性のバーフバリが非常に強いキャラクターを持っています。であれば女性も同じくあるいはそれを上回る強さがないと釣り合わない、話として成立しないというドラマ的な理由があります。

そして、強いといった場合それは身体的な強さではなくて心理的に強いことです。捕虜として国に連れて行くという風に言われたデーヴァセーナは返します「あなたは私の心を勝ち取ったけれども、私はあなたのために死ぬ用意はできているが、あなたのために生きるつもりはない。」と言います。つまり、私は自分の主体性や考えを曲げてまであなたについていくことはしない、これを聞いてバーフバリはひれ伏すわけですね。本当に自分よりも優れた人がいたというドラマ的にも盛り上げるそ要素であります。女性はこのように描かれているのです。

宇多丸:
僕、本当にバーフバリに感服する部分があります。バーフバリのみならず監督の過去の作品「マッキー」であるとか「あなたがいてこそ」のを拝見していると、全てがですね「アクション」と「ストリート」「テーマ」そしてその場面の「空間設計」の全部が見事に一致している。それが観客により大きな映画を見ている「楽しさ」「映画的カタルシス」を与えるという作りになってるということ、僕は本当に素晴らしいと思っています。

 

Q5:様々なアクションシーンのアイデアはどのように、考えているのでしょうか?

私はアクション映画がもう大好きなんですね。子どもの頃からブルースリーの映画が好きでした。他にも「ベンハー」「ブレーブハート」こういった作品をみて本当にワクワクした子供時代だったんです。ただこういった作品に直接に影響を受けたというよりは、やはり「どれだけ感情がアクションにともなっているか」が大事です。あとは芸術的な見せ方にも興味があります。

矢を放つシーンがありますね。バーフバリとデーバセーナ2人が、これはすごく複雑なシーンなんです。なぜかというと、国が責められて危機に瀕している状況先ほどまでおバカだと思っていた人がいきなり三本の弓を放って彼女に教えだすこと、同時に恋にも落ちている。そして、迫りくる敵をどんどん矢で射っていかなければならない。それをダンスのように舞いながら行うということ。そういった重層的な、多面的なシーンにわざわざして自分の暮らし、自分の生き方をめんどくさくしているんですね私は。同時にクルーにも面倒を掛けています。

 

宇多丸:
まさに僕は今おっしゃったシーンが、バーフバリという映画がどれだけ面白いのかを人に説明するときに伝えている場面です。これだけ重層的な意味が重なっている場面なんだと説明に使っているシーンを監督もあげられたので、僕的にはもう二本の親指が立った状態です(笑)
他にも場面毎のアクションシーン。例えば格闘するしても、雪山で格闘するときはこういった場面、アイデアがものすごく豊富で、同じような場面が一つもない。

Q6:場面ごとに新たな工夫をこらそうと考えられているのですね?

おっしゃる通りですね。今の観客には、娯楽における選択肢がいろいろあります。だからある意味色々な側面を用意しないと、360°全方位で考えないといけないわけですね。注目を集めてもらうためには何が必要か、それにはやはり複雑なレイヤーというものを要するということです。

宇多丸:
あと見てて面白いと思うのは、前後編通じて、例えば「前に会った場面と場面」あるいは「以前にある登場人物がした動きと動き」が呼応しあう、リフレインし響き合う構成がものすごく匠に出来てる。映画的な伏線の張り方がものすごく匠に出来てるということが素晴らしいと思うのです

Q7:場面がリフレインする構成は、考えて作り上げていくのでしょうか?

その複雑さ、多面的な面というのはデザインにあるんですね。このキャラクターをどういう風に造形したか。例えばバーフバリに関して言うと、彼の24,5歳の頃がだいたいフィーチャーされてます。ただ実際には彼が生まれてから子供時代「何が好き嫌いだったか」「どんなカレーを食べたか」「どんな哲学を持っているか」そういったことも実は全部用意して描いてあるのです。

そして、QAセッションを行いました。演じる役者達にそのキャラクターに関する500ぐらいの質問を浴びせて、それを知ってもらい、そうすることで平面的でない肉付けされた人物というのが出来上がっていきます。ですからバックストーリーがあってその過去もあれば未来もあるのです。そういったことを作ったがゆえに非常にキャラクターが生き生きとして見えてくるわけです。

宇多丸:
具体的に作品の中身についても伺います。カッタッパがシブドゥと初めて対面したとき、あるいは幼いバーフバリの足を自ら額にのせる強烈に印象に残るシーンがあります。これは日本の観客には非常にインパクトがある仕草なんですが

Q8:足を額にのせる行為は、インドの伝統的な好意の示し方ですか?

あの足を頭に置くというのはインドの伝統ではないんです。私が何を示したかったかというと、カッタッパは非常に身分の低い出であり、奴隷として一生おくってきました。いつも下に見られてきたんですね。ところがデーヴァセーナが、妊娠をしたということがわかった時に「私の赤ん坊を抱いてもらえますか」と言われ、それは王の父としてということをいわれ、今までそんな高い地位の人のような扱いを受けたことのないカッタッパは、心を動かされるわけです。(宇多丸:名付け親になってくれと言われますね)

そして、その赤ん坊シブドゥが王になるということがわかった時に、またこれも気持ちが高まって「一生守ります」という意味で赤ちゃんの足を頭の上に自分の頭に置くわけです。しかしながら、その赤ん坊の父親を殺すということに至ったわけですけれども、でももうすでにこの子供に一生仕えますという風に彼は決めていました。ですが、25年経ってその子供が成長して戻ってきましたが、そこでさらに気持ちが高まってそこでまた足を頭に思わずへ置いてしまう。本当に私もこのドラマチックな場面がとても好きです。自分でもとてもこの行為が好きですね。

宇多丸:
エンディングのシブドゥの戴冠式に、物語上かなりの悪役と言っていいビッジャラデーヴァが、割りとしれっと生き延びて参列してますよね。殺されてもおかしくないぐらい悪い人なのに普通に好戴冠式にいるのが、なかなかユーモラスであり不思議な気持ちがしたんです。

Q9:なぜ悪役のビッジャラデーヴァは普通に「シブドゥの戴冠式」に参列しているのですか?

なぜ彼がいるかと言うと、最大の罰を彼に与えたいからです。彼の人生ビッジャラデーヴァは「息子が全て」の人生でしたよね。その愛する息子が目の前で生きて焼かれるということを見る痛み。ビッジャラデーヴァを殺すのはたやすいことです。ただこれから生きていく、瞬間が常に拷問であるようにという最大の罰なのです。

Q10:マハーバーラタの物語の展開のオマージュではないかという論がありますが

マハーバーラタは、私のすべてのインスピレーションの源です。

Q11:王の凱旋完全版は、インターナショナル版とどう違いますか?

今までみなさんが見ていた「王の凱旋」というのは、まるでジェットコースターに乗ってとても早い展開で、色々なことを経験して観るというためのものです。今度公開されるフルバージョンというのは、それぞれのシーンや感情が少し長く余韻を残して浸って、それが笑いであれ何であれ「浸る時間」を用意しました。

宇多丸:
カッタッパがビッジャラデーヴァと決戦の最中に、2人の因縁の決着がつくところが僕的にはめちゃめちゃグッときたところです。

私もあそこが一番好きなシーンの1つです。

Q12:テルグ語撮影の「トリウッド」と、メジャーな市場を持つ北インド「ボリウッド」映画の違いはありますか?

実は私は、インドの北と南で文化的・言語的違いはありますけれど、映画の内容的には違いはないと感じています。

宇多丸:
その「バーフバリ 王の凱旋 完全版」は6月1日から日本でも公開されるということです。
本日は、S・S・ラージャマウリ監督、ありがとうございました。

王を称えよ!

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